トップメッセージ Top Message

小売業の本質は変化対応業
そのために「 人 」の力で磨き続ける
「 店 舗 」を成長のドライバーに

株式会社ビックカメラ
代表取締役社長

秋保 徹

企業風土や仕組みを変えていく
必要性を実感した1年目

今一度、店舗を成長のドライバーにしたい、リアル店舗を魅力あるものにしていきたいという考えは、社長に就任する以前から思っていましたが、就任を機に声を大にして伝え始め、1年以上が経過した現在もその想いは変わりません。私たちの店舗には高いポテンシャルがあると信じて疑いません。そんな店舗を磨きに磨き上げ、高い競争優位性を確立することで、店舗の成長だけでなく、店舗を起点とした事業の多角化につなげていけると考えています。ただそのためには、もっともっと変化し、進化する必要があります。いつまでも過去の成功体験に浸らず、時代や世の中の変化、お客様の変化に対応していかなければいけません。必要なのは、経営陣も含めた一人ひとりが思考を変えていくことです。しかし、思考を変えることはそうそう簡単なことではないということを最初の1年で実感しました。ただ変えようと言うだけではなく、しくみを変えていくことの必要性を、日を追うごとに感じています。企業風土や制度を中心としたしくみを変えていく、ある意味改革です。この改革のスピードを上げていかなければいけないという想いを強くしています。

その改革の一つ目として、二年目のスタートと同時に組織のスリム化・フラット化に取り組みました。日本の企業は上位下達な組織風土がまだまだ抜けきらないと言われていますが、当社もその傾向が強いと感じていました。本来は現場重視のはずが、本部肥大化により余計な業務や指示が増え、現場の主体性が損なわれる状況がありました。上司から指示を受けて行動するのではなく、従業員一人ひとりに権限を委譲して主体的に考え行動する、創造性をフルに発揮する、そしてトライアンドエラーを繰り返すことが非常に大事だと思い、一年目の早い段階から取り組み始めました。そして、その実効性を高めるために大きな組織改編に踏みきったのです。しかし、組織を変えただけでは不十分なので、中身のオペレーションや制度設計も含めたしくみを大きく変えていくという二つ目の改革を一気に進めていく必要があると感じています。

お客様の多様化するニーズに
不可欠な「変化対応力」

経営戦略に「ビックらしい強い店舗を取り戻す」というものを掲げています。この「ビックらしさ」とは物理的なものではなく、マインドの部分です。例えば、1990年代や2000年代は家電の需要が旺盛で、「より良い家電が欲しい」や「よりお得に購入したい」というニーズを持ったお客様がたくさん来店されました。そのお客様のニーズをしっかりとキャッチアップし、対応できていたと思います。

しかし、時代は変わり、各家庭には大型家電だけではなく様々な質の良い家電が揃っていて、ある程度の豊かさはすでにある状況で、家電購入の優先順位が低くなっています。それと同時に、お客様のニーズや価値観は多様化しています。そのような状況の中でビックカメラはどうあるべきかと考えた時、当時と同じやり方・考え方ではなく、世の中の劇的な変化に対応していく、「変化対応力」を取り戻すことが不可欠だという考えに至りました。以前はその力がありましたが、今は薄れてきてしまったと感じています。「ビックらしさを取り戻す」とは、あの頃の店舗をもう一度再現するというわけではなく、あの頃のマインドに全員が立ち返って、その時々にお客様が求めているものを瞬時に察知し対応するというビックカメラ本来の姿に回帰することです。そして、お客様ニーズが多様化し変化の激しい時代に対応していくために欠かせないのは、従業員一人ひとりの主体性です。個を尊重する風土と、一人ひとりが主体的に考え行動し活躍できる会社にするためのしくみが必要なのです。

お客様の声をバリューチェーンの
中心に

しくみというのは風土や社内制度だけではなく、日々の業務への向き合い方も含まれます。私たちの元には至る所から膨大な量の“お客様の声”が届きます。しかし、「お客様視点で」や「お客様の立場に立って」と口にはしますが、いただく無数の声を活かすような仕事の流れになっていないのが実態です。“お客様の声”にはネガティブなものも多くあります。つまり、お客様の期待に応えられていないということです。そこで改めて業務の起点に“お客様の声”を組み入れて、仕入れや店舗の陳列、サービスに転換していく流れに変えていきます。つまり、バリューチェーンの変革です。

一方で“お客様の声”というのは、あくまで顕在化されたものです。お客様を驚かせよう、期待以上の品揃えやサービスを提供しようと思ったら、お客様自身でもまだ気づいていない潜在的ニーズを、お客様視点で先回りして考え提供・提案することが必要だとも感じています。

信頼とワクワクの提供により、
「買い物は最大のレジャー」を追求

私たちの提供価値は、好立地に大型店舗を構えているということが大前提にあり、カメラや家電を中心に、お酒、布団、薬などの非家電含め様々なものを取り揃えており、それ自体が稀有なモデルです。さらに、ひとつひとつの領域に高い専門性を有した専門販売員がいます。私たちが目指すのは、立地、品揃え、専門販売員という強力なアセットや提供価値をどんどん磨いて「信頼」と「ワクワク」を作ることです。

「信頼」とは、テレビや冷蔵庫だけではなく、パソコンのパーツなどニッチな商品を求めるお客様においても「欲しい商品が必ずある」「ほかにはないけれどビックカメラなら絶対にある」という信頼です。“こだわり”の専門店の集合体として一番ベーシックな部分ではありますが、まだまだ足りていないと感じており、徹底的に深掘りし、ブレることなく続けていくことで真の信頼につながると考えています。

「ワクワク」とは、潜在的なニーズをお客様視点で先回りして品揃えや店づくりに反映し、売場の至る所でお客様が「欲しい!」と感じるような新しい発見や体験をもたらすこと、です。当社には昔から伝わる「買い物は最大のレジャー」という言葉があります。その言葉の通り目的買いだけのお店ではなく、レジャーランドのように楽しい機会に遭遇できる店舗にしたいと考えています。そうなることで、稀有な存在が本当の意味で競争優位性になり、持続的な成長を遂げられると確信しています。

欲しいものが揃い、ビックカメラならではの体験を提供する店舗ですが、ECも広い意味で店舗のひとつと考えています。店舗以上に豊富な品揃えと、ECに求められる利便性を徹底的に追求する、そしてその共存によって店舗・EC双方の価値は高まるものと考えています。そしてお客様にはその時々のご都合で使い分けていただけるようなものにしていければと考えています。課題はまだまだありますが、「困ったときはビックカメラに頼ろう」「ちょっと時間があるからビックカメラに行こう」という状況を作り上げていきたいと考えています。

祖業のカメラで心の豊かさを
提供したい

カメラを祖業としているビックカメラとして、改めてカメラに力を入れたい、カメラ市場をもっと盛り上げていきたいと思っています。今や世界中のほとんどの人が写真を撮っています。人の感情に訴える心を揺さぶるようなもっと良い写真を撮りたい、もっと良い写真をSNSにあげたいという潜在的なニーズに対し、お客様視点で考え、新たな発見や体験をもたらすことで日本中に心の豊かさを提供できるのではないかと感じています。私たちはスマートフォンやパソコンで撮影した画像を見るだけではなく、写真をプリントしたり、それらをアルバムにして楽しむという、アナログ的な文化を再構築していきたいと思っています。そして、それが世界トップクラスの品質とシェアを誇る日本のカメラメーカーにも貢献できるものと考えます。お客様と直接接する当社だからこそできる取り組みを通し、社会や業界など、あらゆる方面へ貢献していきたいと考えています。

従業員エンゲージメントNo.1の
会社を目指して

ビックカメラが持続的に成長し、すべてのステークホルダーに価値を提供し続けていく上で、前述したカメラの例のように、時代とともに変化していく社会やお客様の多様な価値観・ニーズに対応していくことが不可欠だと感じています。

昨今、日本の人口減や少子高齢化、労働人口の減少が叫ばれる中で、企業は人手不足という課題に直面しています。一方で、働きたいけれど満足いく環境で働けない、能力を発揮できないといった問題を抱えている人もたくさんいます。こうした社会課題は「人を成長の原動力とする」という経営戦略と非常に合致すると同時に、最重要ポイントと考えています。そのような方々の多様な個性や能力を発揮できる場を提供することで、当社の成長のドライバーである「店舗」をさらに魅力的なものにするとともに、雇用の創出という社会貢献も果たしていく決意です。そのためにまずは、スピードを上げて風土やしくみを変え、世の中やお客様から信頼され、あてにされる企業であり続け、さらには従業員にとっても働きやすく、誇りを持てる職場環境にしていきます。

「従業員エンゲージメントNo.1の会社になりたい」。これを会社の合言葉、特に経営陣の合言葉にして、従業員満足度が小売業の中で一番になることをひとつの目標にしていきたいと考えています。この目標を達成するためには大きく分けて5つのポイントがあります。一つ目は、企業理念や企業としての存在意義を社内外含めてはっきり明示して共有し、共感を得て浸透していくこと。二つ目は、多様性をしっかりと受け入れ、活用していけるような風土や制度を作り上げていくこと。三つ目は、若い力をもっと活用できる制度を作ること。四つ目は、従業員の承認欲求を満たすこと。五つ目は、教育・研修の機会の提供や資格・技能取得の支援など従業員に対して適切に投資していくこと。以上の5つです。

その中で三つ目の若い力ですが、当社には「若けりゃいいってもんだ」という創業者の言葉があります。2010年頃までは20代の最年少店長を抜擢するなど若い人たちに活躍の機会を提供していました。しかし、会社が大きくなるとともに、ここ10年15年はそうした機会が減っています。若い人だからこその創造力や提案力を活かせる風土・制度に変えていくことは、人を成長の原動力にしていくという人的資本経営にもつながっていくと思っています。

また、四つ目の承認欲求に関しては、評価なくして権限委譲なしという考えです。せっかく素晴らしい成果を出したのに気づかれないようではいけませんし、主体性を持って行動したことが公平公正に評価されなければいけません。そのために、本人がもっと自己主張できる機会や承認欲求が満たされるしくみ、さらにはすでにスタートしているマイスター制度や表彰制度のように従業員のハートに火をつけるレバレッジの効いた制度やしくみを作り、「人」の力で「店舗」を進化させていき、それを会社の成長、そして社会に貢献していきたいと考えています。

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